ショパン生誕200年記念2 知られざる“ショパン”に寄せて

今年はショパン生誕200年に当たり、多くの企画が催されています。彼が作曲した多くはピアノ独奏曲で、今回のように室内楽を中心とした曲で構成されるプログラムは、貴重な部類に入ると思います。ショパンが作曲した室内楽は全5曲で、その中の4曲にチェロが使われており、ピアノとチェロが3曲、ピアノ三重奏曲が1曲と、彼がピアノ以外に最も好きだったのがチェロだと言うことがうかがえます。チェロとピアノの曲は比較的よく演奏されますが、今回演奏されるピアノ三重奏曲は演奏されるのが稀で、私自身も演奏するのは2回目です。まさに“知られざる 『ショパン』”といったところでしょうか。

このピアノ三重奏曲はヴァイオリン、チェロ、ピアノで編成されていますが、ショパン自身この曲を書いた後に“ヴァイオリンをヴィオラにした方が、チェロとよく調和するかもしれない”と言っていたほど、通常のヴァイオリンの音域より低く、実際演奏を見ていただくと分かりますが、2本目の弦を多く使用します。

人の耳と言うのは高音域によく反応するようになっているため、高い音域の少ない曲というのは聴衆への印象付けが難しくなります。また、音域が低いということは、ショパンも指摘したようにヴァイオリンとチェロのバランスを保つのが困難で、ピアノも音色を考えないと両者を生かせなくなる、といったように三者ともが絶妙な全体のバランスを図らなくては良い演奏ができません。この難しさが18歳の若きショパンの才能溢れる瑞々しい作品でありながら、演奏される機会に恵まれない理由の一端なのかもしれません。

今回の演奏では、難点と思われがちな高音域が少ないことが魅力となるように工夫したいと思っています。ヴァイオリンでよく使われる高音域は人の歌声より高いのですが、この曲では音域が低いため声域と似てきます。そのため、ヴァイオリンであたかも人が歌っているような温かみが出せるようになります。具体的にはヴィブラートをかける箇所ですが、ヴァイオリニストの大谷康子さんの繊細なヴィブラートは素晴らしく、耳では勿論のこと目でも楽しめると思います。手の動きや右手の弦の使い方など生演奏ならではの魅力を味わっていただきたいですね。

今回はピアノ三重奏曲をはじめ、やや知名度の低い曲目も含まれるプログラムではありますが、初めて聴かれる方にとってもやはりショパンですので、耳馴染み良いと思います。

司会の青島広志さんとは東京藝術大学作曲科での同級生です。学生時代から頭の回転が早く、面白いキャラクターでした。「題名のない音楽会」という番組でブラームスに扮した姿には少々驚きましたが、楽しく分かりやすい解説でした。今回もきっと彼の簡明な説明と楽しいトークで盛り上げてくれると思います。

最後に、大田区アプリコホールは様々な楽しい企画が催されるホールでが、クラッシックホールとしての素晴らしさの割に知名度はやや低いかもしれません。このホールの特徴は残響時間が長いことで、弱音でも隅々まで響き渡らせることができ、楽器とホールとの一体感が良く感じられます。これはテレビやCDでは絶対に表現できないものだと思います。

また、通常、残響時間が長くなると音が重なり濁りやすくなりますが、このホールは音響バランスが素晴らしいため、クリアーな音が出せる上に温かみのある音色も表現できます。相反するとも思える特徴を見事に持ち合わせているのです。こうした点を考えると都内でも有数のホールと言えるでしょう。

そして、兼ね兼ね興味深く思っていることですが、お客様がお見えになることにより残響時間が短くはなるのですが、調和のとれた豊かな音が表現できるのです。生きた響きに乗せて弾く醍醐味は演奏者だけのもではなく、来ていただいたお客様とも共有できるものと思っています。是非この素晴らしいホールで体感していただければと思っております。【談】

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