武満徹「2つのレント」のエピソード

「2つのレント」は1950年に発表された曲で、同年藤田晴子さんの演奏により初演されましたが、当初批評家による評価が良くなかったこともあり、長い間眠っていた曲です。

私がこの曲を知ったのは、武満さんの作品集に曲名があったからです。どんな曲だろうと思い、初演者の藤田さんに楽譜の所在を聞きしました。初演後も何度か演奏されていましたが、楽譜はお持ちではなかったです。それで、武満さんに楽譜を貸して欲しいと言いましたら、自分は持っておらず、福島さんなら持っているかもしれないということでした。

福島さんとは、武満さんの実験工房時代の盟友で、上野学園大学日本音楽史研究所長の福島和夫教授のことです。当時は図書館長だったと思います。楽譜が彼の手に渡った経緯は知りませんが、武満さんの計らいで、福島さんから楽譜のコピーを借りることができました。因みに私は原本を見たことがありません。

1982年にピアノ作品集を録音する時に、武満さんは浦安市文化会館にいらしてくださいました。福島さんからコピーさせていただいたこの曲が私はとても気に入ったので、「2つのレント」の1曲目は神秘的で、不思議な出だしが素晴らしいから弾きたいと武満さんに言いました。その時、武満さんはすっかりこの曲の事は忘れておられ、楽譜を見て、ああそう言えば、といった感じでした。そしてこの曲を弾いてみたところ、このレコードに限って収録を許可してくださいました。

武満さんが亡くなって一周忌の音楽会が八ヶ岳音楽堂であり、この曲を弾きました。それを高橋アキさんが聴いて、やはりいい曲だから私も弾きたいとおっしゃっていました。その時の楽譜は私がフォンテックにコピーを借りてきたものでしたが、武満さん本人がこの曲をあまり世に出したくなかった経緯もあったので、その辺りの了承を得なくてはならないことを高橋さんに伝えたのを覚えています。

この曲は再構成し「リタニ」という曲になっています。しかし、「2つのレント」は「リタニ」にない素晴らしさもあるので、貴重な武満さんのピアノ曲として、後世のピアニストが弾いていけるようになればと願っています。

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